DETAIL
陸と玖 ― 見えないものを映す酒 ―
私たちが生きる現代は、情報も評価も氾濫し、“自分”が誰であるかを見失いやすい時代です。
他人の声に揺れ動き、本質よりも評価を追い求めてしまう。
そんな時代だからこそ、酒は「対話の鏡」でありたい。
「陸」と「玖」は、同じ原料米、同じ精米歩合から生まれながら、
6号酵母と
9号酵母という異なる“命”を与えられた二つの存在です。
6は秋田に生まれ、清らかで凛とした陰を映す。
9は熊本に育ち、華やかで厚みのある陽を象る。
天と地、男性と女性、静と動。
対極にあるはずの二つは、実は一つの世界を映し出す両の眼。
単独で飲めば、孤高と包容という二つの性質を感じる。
混ぜ合わせれば、その狭間にある「いま」を知ることができる。
――それは、見えないものを感じ、自分の内なる声と向き合う体験です。
そして、その体験は「空白」ではなく
「余白」によって生まれる。
ただの虚無ではなく、余白には呼吸があり、余韻があり、想像が広がる。
日本の四季や伝統が大切にしてきた“間”の美しさを、この酒は映し出す。
日本の四季のように、陰があり陽がある。
伝統の技のように、削ぎ落としと厚みが共存する。
そして人生のように、答えは一つではなく、間にこそ真実が宿る。
「陸」と「玖」は、ただの日本酒ではありません。
それは、現代を生きるあなたが、他人の評価ではなく、自らの心に耳を澄ますための
伴侶。
見えないものを感じるための
余白を映す鏡です。
そして私は、そのような思いを胸に、この酒を丁寧に仕立てました。
陸 -Roku- と 玖 -Kyu- ― 特等山田錦を磨き、酵母が導いた二つの貌 ―
大変だったところ
温暖化の影響で米は硬く、発酵時に溶けにくいという現実。
この課題に挑むため、仕込配合において
麹米比率を通常より2%引き上げ、もろみの
品温を低めに推移させました。
米を焦らず、ゆっくり、丁寧に溶かしていく。
これは
「時間と対話する酒造り」そのものです。
こだわり
ただ米を溶かせばいいわけではない。
過度に溶かせば雑味が増し、最高級の特等山田錦を使う意味が失われる。
逆に溶けなければ、米の力を生かせず単調な酒になってしまう。
その狭間で研ぎ澄ませたのは、「バランス」。
ジューシーで瑞々しい酒質を追求し、搾った後はお酒に一切のストレスをかけぬよう、
定温管理のまま
濾過・瓶詰めを3日以内に完遂。
米の声を聞き、米の力を解き放つ造りです。
他と違うところ
香りは控えめに、味わいは柔らかく。だからこそ料理との相性が広く、奥深い。
さらに、この2本は「完成」でありながら「未完成」でもある。
長期熟成によって、伸びしろはまだ先に待っています。
味わいの肖像
陸 - Roku -
シャープで気品のある女性的な落ち着き。
一歩引いて相手を引き立てる、凛とした女性のようなイメージ。
淡い旨味を活かした料理と響き合う。
相性料理例: 刺身/すまし汁/茶碗蒸し
玖 - Kyu -
対照的に、厚みと存在感を放つダンディズム。
癖の強さを許容しつつも協調性を忘れない、引っ張っていく男性のようなイメージ。
濃厚な料理にも寄り添い、その強さを受け止めて調和する。
相性料理例: 赤ワインソースのステーキ/アクアパッツァ/オイリーなソース料理
メッセージ
「陸」と「玖」は、同じ米・同じ精米歩合から生まれながら、異なる酵母が導いた二つの真実。
それはまるで、人と人の違いのように。
研ぎ澄まされた孤高の静謐 ― 陸。
厚みと包容力を持つ躍動 ― 玖。
相反する二つの顔が、飲み手の感性によって一つに融け合う。
その瞬間、酒はただの飲み物を超え、物語へと変わるのです。
スペック陸 - Roku - |
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原料米 | 兵庫県東条産 山田錦 特等 |
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精米歩合 | 33% |
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酵母 | 協会601号 |
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アルコール分 | 16% |
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日本酒度 | ±0 |
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酸度 | 1.5 |
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アミノ酸度 | 1.0 |
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グルコース | 1.7 |
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粕歩合 | 46% |
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| 玖 - Kyu - |
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原料米 | 兵庫県東条産 山田錦 特等 |
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精米歩合 | 33% |
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酵母 | 協会901号 |
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アルコール分 | 16% |
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日本酒度 | -2.0 |
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酸度 | 1.6 |
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アミノ酸度 | 1.0 |
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グルコース | 2.1 |
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粕歩合 | 47.5% |
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